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直腸がん手術後患者に対する長期鍼治療の検討(京都大会)

東洋医学研究所®

○米山徹子,黒野保三

 

【目的】

直腸がんは欧米に多い疾患であるが、食事の欧米化や生活環境の変化によって近年日本で増加している疾患の一つである。今回直腸がんと診断され手術を受けた患者に対し、約4年間に渡る長期鍼治療を行った経過を報告する。

【症例】

61歳女性。平成15年12月頃より便の出が悪く、平成16年1月に直腸がん(中分化腺がん 3×3.5cmステージⅢa進行がん、卵巣とリンパ節に転移あり)と診断され、2月3日に手術(直腸を10cm、直腸より前方約10cm、後方約2cmの範囲と、卵巣及びリンパ節、子宮を切除)を受けた。手術後に生じた尾骨尖端付近の強い痛みと、下痢・排便過多の症状を訴えた患者に対し、鍼治療(太極療法)を平成16年3月12日~平成19年12月10日までの1346日間(341回)行った。

【結果】

初診時以降、週2回の鍼治療を継続し、15回目来院時に尾骨尖端付近の痛みは消失した。排便回数は1日20回から約3ヶ月後の22回目来院時には3回前後に減り、その後は便の質も改善されている。腫瘍マーカーの数値は正常範囲内で推移し、血液検査数値は安定している。初診時以降抗がん剤を服用していないが、現在リンパ節腫大は認められず、再発・転移もしていない。体重は38kgから43kgに増加し、鍼治療を継続したことにより手術前よりも体調が良いと自覚している。

【考察・結語】

直腸がん手術後の愁訴を持つ患者に対し、約4年間に渡り鍼治療を行った。その結果、愁訴は改善し、抗がん剤を一切服用せずにリンパ節腫大やがんの再発・転移は認められず、血液検査にも大きな異常は認められていない。また痛みや排便などの改善や体調の向上を自覚していることから、鍼治療は、がんの再発を予防し、直腸がん手術後の体調不良に対して有効な治療法であることが示唆された。患者は今後も鍼治療を希望しているため、経過を観察したい。

 

【キーワード】直腸がん 手術後愁訴 鍼治療(太極療法) 腫瘍マーカー