平成20年9月号
生体制御学会ホームページ委員長
河 瀬 美 之
平成19年8月まで「研究班紹介」と題して研究班の班長の先生より研究班の紹介を頂いておりましたが、9月より、メディアの医療情報の中で研究班に関係する記事がありましたら各班長にコメントを頂き、日頃の臨床に役立てて頂く目的で「生体制御学会NEWS」を発信させて頂きます。
今回は『整形外科領域の診療における問診、徒手検査の重要性』について、生体制御学会研究部疼痛疾患班の担当として私が以下のように報告致します。
整形外科領域の診療における問診、徒手検査の重要性
生体制御学会研究部疼痛疾患班
河瀬 美之
以前まで、整形外科診療では患者に対する問診や徒手検査よりも、医療診断機器の進歩からレントゲンやCT、MRIなどが重要視されてきており、患者を診ずに検査データを診て診断を行っているのが現状でした。
しかし、最近の数年の傾向として、問診や徒手検査、各種スケールを用いて診断を行い、その確認として各種の医療診断機器を用いて検査を実施し、総合的に判断を行うようになってきました。
日本整形外科学会では、2007年より、今までの腰部JOAスコアから患者のQOLを調査して診療に役立てることを目的としたJOABPEQを作成し、症例を集積して検証されています。
また、膝痛の診療に不可欠な徒手検査では、今までの前方引き出し・後方引き出しテストよりも鋭敏に反応するといわれるLachmanテスト・gravityテストの記載が多くなされ1)2)、その有用性が述べられています。
頚椎ヘルニアでは、頚部神経根症治療成績判定基準と徒手検査を用いて経過を観察し、保存療法を行った結果、約3ヶ月で点数が改善した症例が多いことから、手術療法を行う前に、3ヶ月間の保存療法の重要性を述べています3)。
頚髄症では、頚髄症JOAスコアを用いて検証した結果、初診時12点以上の患者では手術を行っても行わなくても将来寝たきりになる確率に有意差はないものの、それ以下の点数であれば手術療法が有意に寝たきりを回避できることが述べられています4)。
頚髄症患者における10秒テスト(Myelopathy Hand)の信頼性を検証した結果、再現性などの有用性が述べられています5)。
これらのことは整形外科診療における問診や徒手検査の重要性が再認識されてきている結果です。
私達の臨床鍼灸の現場では患者の話をよく聞き、様々な手法を用いて総合的に診察しています。そこで、以上のような報告をいち早く取り入れ、適切な問診、正確で迅速な徒手検査を行い、患者の状態を十分に把握して適切な治療とアドバイスができるようにさらに訓練していかなければいけないと思います。
引用文献
1)http://www.geocities.jp/miyadai0403/topin/at-study/st-con/test.htm
2)http://homepage3.nifty.com/sugita_ortho/band_injury_of_knee.html
3)田中靖久他:頚部椎間板ヘルニアの保存的治療;整形外科有痛性疾患保存療法のコツ.全日本病院出版会,95-99.2000.
4)松永俊二:頚椎後縦靭帯骨化症;整形外科有痛性疾患保存療法のコツ.全日本病院出版会,100-104.2000.
5)海渡貴司他:頚髄症患者における10秒テスト再テスト信頼性;臨床整形外科,335-338.2007.