平成22年5月号
(社)生体制御学会
会長 中 村 弘 典
平成19年8月まで「研究班紹介」と題して研究班の班長の先生より研究班の紹介を頂いておりましたが、9月より、メディアの医療情報の中で研究班に関係する記事がありましたら各班長にコメントを頂き、日頃の臨床に役立てて頂く目的で「生体制御学会NEWS」を発信させて頂きます。
今回は『うつ病に対する予防効果』について、生体制御学会研究部不定愁訴班班長の石神龍代先生に以下のように解説して頂きました。
うつ病に対する予防医学
生体制御学会研究部 不定愁訴班班長
石神 龍代
うつ病は複雑多岐にわたるストレスフルな現代の日本社会において確実に増えています。厚生労働省が毎年行っている2005年患者調査によれば、気分障害の患者数は1999年に約44万人であったが、2002年には約71万人に、さらに2005年には約92万人に増加しているといわれ、どこの精神科関係の医療機関もうつ病患者で溢れているという状況だということです。
うつ病の増加は自殺の増加にもつながり、また医療経済学的にも大きな損失であることから、ここ数年、国を挙げてうつ病対策を強化しています。その具体的な例としては、2008年に厚生労働省が新規に事業化した「かかりつけ医うつ病対応能力向上研修事業」があります。これはうつ病患者の多くが最初に受診する先がかかりつけ医であることから、うつ病診療の入り口を強化しようとするものであります。
東京大学医学部診療内科名誉教授久保木富房先生は「軽症うつ病の診断と治療」の論文の中で「うつ病患者の中で、双極性うつ病や重症うつ病といわれる患者は15%程度で、軽症から中等症のうつ病が圧倒的に多い。軽症うつ病患者がどのような主訴で受診しているかを調査すると、やはり不眠が一番多く、続いて易疲労感、頭重・頭痛、腹痛、肩こり、腰痛、食欲不振、腹部不快感、便秘、めまい感、動悸といった身体症状であって、抑うつではない。したがって、頭痛、めまい、不眠症、自律神経失調症、更年期障害、低血圧、心臓神経症、胃腸神経症、胃下垂、慢性胃炎、胃アトニー、過敏性腸症候群、糖尿病、認知症などの病態や病名をもっている場合、あるいはそのような訴えのある患者で、長い経過をもっている場合には、軽症うつ病が隠れている可能性を疑って診療する必要がある。軽症うつ病は身体症状を主訴とすることにより、精神科以外の臨床各科を受診することが世界的傾向として指摘されている。笠原はこの軽症うつ病に対して、外来治療が可能なうつ病という意味合いから『外来うつ病』という言葉を使用し、それらは内因性非精神病性うつ病であると述べている。」と述べられており、このような患者さんが鍼灸院に来院される可能性は大いに考えられます。
その意味におきまして、初診時に(社)全日本鍼灸学会研究委員会不定愁訴班黒野保三班長の作成された不定愁訴カルテの健康チェック表をつけて頂くことにより、主訴以外の健康状態について、それを基にして、より詳細な問診を行うことができ、うつ病の早期発見・早期治療に役立つと思います。
生体調整機構制御学会黒野保三名誉会長よりいつもご指導いただいている学・術・道の研鑚に努め、鍼治療による全人的医療を目指して精進していきたいと思います。