平成22年10月号
生体制御学会
会長 中 村 弘 典
平成19年8月まで「研究班紹介」と題して研究班の班長の先生より研究班の紹介を頂いておりましたが、9月より、メディアの医療情報の中で研究班に関係する記事がありましたら各班長にコメントを頂き、日頃の臨床に役立てて頂く目的で「生体制御学会NEWS」を発信させて頂きます。
今回は『自律神経反応の客観的評価(2)新しい心臓副交感神経の指標DC(Deceleration capacity)について』について、生体制御学会研究部情報・評価班班長の皆川宗徳先生に以下のように解説して頂きました。
自律神経反応の客観的評価(2)
新しい心臓副交感神経の指標DC(Deceleration capacity)について
生体制御学会研究部 情報・評価班班長
皆川 宗徳
黒野保三先生のご指導を頂き「心拍変動解析による鍼刺激に対する自律神経反応の評価」と題して、第59回(社)全日本鍼灸学会学術大会(大阪大会)において4題研究報告をすることができました。
鍼刺激に対する自律神経反応の客観的評価として、従来の心拍変動(heart rate variability,HRV)指標からは評価できない部分を、新しいHRV指標DC(deceleration capacity)で評価することができ、このDCの指標により、隣接する2つの経穴であるダン中穴と中庭穴への鍼刺激に対する自律神経反応を同一個体で比較したところ、ダン中穴は心臓副交感神経指標を増加しましたが、中庭穴は有意な変化を起こしませんでした。経穴には刺激によって心臓副交感神経活動亢進をもたらすものが存在するのみでなく、その効果には経穴ごとの特異性が存在することが証明されました。
このDCに関しては、共同研究者の名古屋市立大学大学院医学研究科医学・医療教育学分野教授早野順一郎先生からご教授頂いたものであり、新しい心臓副交感神経の指標として注目されています。
DCは、R-R間隔の変動の内、直前のR-R間隔よりも延長するものだけを抽出して加算平均する方法です。心拍変動は、洞結節の心臓副交感神経及び交感神経修飾の両方に影響を受けていて、自律神経系の交感神経系と副交感神経系は、心機能の制御において、主要な役割を演じます。一般的に心臓支配の交感神経は促進性であり、これに反して副交感神経は抑制性であります。交感神経と副交感神経の動力学は、本質的に異なる。副交感神経の効果は迅速で、1心拍程度以内であり、その効果の消失も非常に速い。すなわち、副交感神経は、心機能の制御を1拍ごとに制御します。反対に交感神経活動は、開始と終了ともに緩徐であり、1心拍程度の時間では、非常に小さな変化しか認められません。交感神経系と副交感神経系が同時に作用すると、その効果は数学的に加算されるような単純なものではなく、入り組んだ相互作用が主体となります。
心臓交感神経活動が刺激されると、心拍数と心収縮力は、1~3秒の潜時をもって増加し始め、30秒程度で定常状態に達します。刺激がなくなると、再びもとの状態に戻るのには、刺激開始から定常状態に達するよりも時間がかかります。
以上のように、心機能における自律神経の作用に違いがあり、1心拍以内の速い調整は副交感神経が作用しており、R-R間隔の延長部分は、心臓副交感神経活動を反映していると考えられます。
今後、情報・評価班では、黒野保三先生のご指導を頂きながら、鍼刺激に対する自律神経反応の評価の研究を進めてまいりたいと思います。