平成23年9月号
(社)生体制御学会会長
中 村 弘 典
平成19年8月まで「研究班紹介」と題して研究班の班長の先生より研究班の紹介を頂いておりましたが、9月より、メディアの医療情報の中で研究班に関係する記事がありましたら各班長にコメントを頂き、日頃の臨床に役立てて頂く目的で「生体制御学会NEWS」を発信させて頂きます。
今回は「左右同時血圧測定」の重要性について』について、生体制御学会研究部循環器疾患班班長の服部輝男先生に以下のように解説して頂きました。
「左右同時血圧測定」の重要性について
生体制御学会研究部 循環器疾患班班長
服部 輝男
平成19年8月まで「研究班紹介」と題して研究班の班長の先生より研究班の紹介を頂いておりましたが、9月より、メディアの医療情報の中で研究班に関係する記事がありましたら各班長にコメントを頂き、日頃の臨床に役立てて頂く目的で「生体制御学会NEWS」を発信させて頂きます。
今回は『「左右同時血圧測定」の重要性について』について、生体制御学会研究部循環器疾患班の服部輝男先生に以下のように解説して頂きました。
「上腕血圧の左右差が大きいと死亡リスク上昇の可能性 血管リスクが高くない高血圧でも」というタイトルで、日経メディカル オンラインメール 2011.6.27 臨時増刊 欧州高血圧学会「ESH2011」速報 No.4として入ってきました。
内容は、血管リスクのそれほど高くない高血圧患者について、上腕収縮期血圧の左右差と心血管イベントおよび死亡リスクの関連性を検討した研究を選択しメタ解析を実施した、という英国Peninsula College of Medicine & DentistryのChris Clark氏の研究です。
その選択された研究の一つ、イタリアで実施されたInCHIANTI研究では、上腕収縮期血圧の左右差のカットオフ値を15mmHgとして、高血圧患者505例を2群に分け、6年間追跡しました。その結果、血圧差(左右)15mmHg以上の群では同未満の群に比べ、心血管死亡リスクが有意に上昇していました(ハザード比[HR]3.63、95%信頼区間 1.56-8.44、P<0.01)。
また、スコットランドで実施されたAAA(Aspirin in Asymptomatic Atherosclerosis)研究では、高血圧患者764例を10年間追跡しましたが、血圧差(左右)10mmHg以上の群は同未満の群に比べ、心血管死亡リスクが有意に高かった(HR 3.0、1.3-7.1、P=0.01)ということです。
これらを基に、上腕収縮期血圧の左右差のカットオフ値を15mmHgとした5試験でメタ解析(1990例)を行うと、血圧差(左右)15mmHg以上群における全死亡のハザード比(同未満群に対する)は1.60(1.13-2.27)で、有意なリスクであることが示されました。
カットオフ値を10mmHgとし、同様に5試験でメタ解析(2309例)を実施しても、血圧差(左右)10mmHg以上の群における全死亡のハザード比は1.60(1.10-2.33)と、やはり有意なリスクでした。
以上の検討からClark氏は、「プライマリケアで治療を受けている高血圧患者においても、上腕血圧の左右差が10mmHgまたは15mmHg以上の患者では、死亡リスクが上昇する可能性がある」と結論し、「左右差の存在は末梢血管病変の兆候だと考えられ、上腕における血圧差(左右)を積極的に調べて管理すべきだ」と述べられています。
私たち生体制御学会研究部循環器疾患班に於いても左右同時血圧測定の重要性を数十年前から見出しており、左右同時血圧計の開発の後押しも協力させて頂き、完成後には左右同時血圧計を用いて毎日の臨床に使用しております。
私たち循環器疾患班は、今回の発表と異なり脳血管疾患に視点の重きを置いてきましが、今後は心血管疾患にも注目していく必要があると思います。
循環器疾患班では、最新医療の抄読会を行っております。鍼灸師の先生で循環器疾患に興味のある先生は、是非、生体制御学会に入会し、循環器疾患班に参加して頂きたいと思います。