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令和6年度第6回(320回)Web講習会

日時:令和7年3月2日(日) AM9:00~PM12:10

会場:Zoomによるオンライン会場

内容

岩瀬 敏 先生
岩瀬 敏 先生

1)AM9:00~10:30

 めまい、その診断と治療

 (公社)全日本鍼灸学会認定指定研修C講座

  愛知医科大学客員教授(神経内科) 岩瀬 敏 先生

 

 今回の講義では『めまい、その診断と治療』と題しまして、中枢性めまいと末梢性めまいに分けられる中で、特に我々が関与することの多い代表的な末梢性めまいの分類と特徴、その対処法を中心に詳しく解説していただきました。

 いくつもの末梢性めまいの中でも代表的なのが、『良性発作性頭位めまい症(BPPV)』、『持続性知覚性姿勢誘発性めまい(PPPD)』、『頚性めまい』である。

 『良性発作性頭位めまい症(BPPV)』は耳石が三半規管に入り込みめまいを発症する疾患で、閉経後の女性に多く、骨密度の低下により耳石がはがれやすいと起こりやすくなる。リハビリテーションとして耳石置換法やエブリー法、耳石体操が有効である。

 『持続性知覚性姿勢誘発性めまい(PPPD)』は前庭感覚が過敏すぎることでめまいを起こす。急に頭を動かす、陳列棚を見る、激しい動きの映像を見る、丸いすに座る、スクロール画面を見る、エレベーターに乗るなどといった前庭感覚に過度な刺激を受けた際に発症する。『宇宙酔い』もこの一種である。治療には敏感な前庭感覚が落ち着かせる目的で、非常に軽い精神安定剤が有効である。

 『頚性めまい』は頚のコリからくるめまいで、頚部の筋肉が硬い状態で、頭を動かすことによってめまいを発症する。特に肩甲挙筋の影響が強く、岩瀬先生の治療法によるキシロカインやステロイドのトリガーポイント注射によって症状は軽減するが一過性で、痛みが少ない状態で筋肉を動かして血流量を増やすことが重要である。

 鍼灸施術の対象は慢性末梢性めまいであり、特にPPPDと頚性めまいは鍼灸が有効であるとおっしゃられ、病態を理解したうえで的確な施術の必要性を示唆していただきました。

 

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澤田 誠 先生
澤田 誠 先生

2)AM10:40~12:10

 記憶という能力の本当の意味 記憶力は未来を決める

 (公社)全日本鍼灸学会認定指定研修C講座

  名古屋大学名誉教授 澤田 誠 先生

 

 今回の講義では『記憶という能力の本当の意味 記憶力は未来を決める』と題して、1年間の講義の復習をまじえながら自由意思による脳研究や、将来のために認知機能を貯蔵する方法など分かりやすくお話いただけました。

 脳の働きと記憶のポイントとして、脳はありのままを見ておらず、必要な情報だけを抽出して保存し、足らないところは補完する。また、脳は単なる記憶装置ではなく、生命維持に関わるものを優先的に記憶し、生命の大原則に従って自分にとって必要な情報を取捨選択している。そして、これまでの記憶の集積によって脳内であらゆる未来の予測をする仮想世界を形成することができる。

 記憶はインプットとして記憶の痕跡⇨記憶の想起⇨記憶の再固定といった手順を踏んで行われ、アウトプットとして行動の変化・実行が行われるが、このインプットからアウトプットに至る際に起こる『わかる』という瞬間にて、脳内では意思決定に関わる情報処理が行われる。サルを使った意思決定の研究として、サルに対してランダムドットモーション弁別課題により2択の課題を行った際の神経活動の計測をしたところ、大脳皮質の活動に試行性の反応が出ることが確認された。

 また、30歳を過ぎると神経細胞が減少するが、老化に伴う認知機能の低下には多様性があるといるデータもある。また、長期記憶とワーキングメモリーは生涯を通じて低下するが、対照的に語彙の知識は維持される。それに対して、将来のために認知機能を貯蔵できる『認知的予備能』というものが重要になる。病理学的に認知症と診断されても、認知機能が正常に保たれる人が存在し、認知症を発症しにくい状態、能力、あるいは個人の特性を『認知予備能』という。

 この『認知予備能』は、教育歴、職業的到達度、若いころの認知機能、運動習慣、多言語使用などによって高められることが明らかにされている。職業的到達度の研究では、職業的な地位そのものよりも、より多くの部下を管理・統括した経験が多いほど、認知機能低下リスクが低くなる。

 澤田先生は、記憶の本質とは自然界で存在するために必要な作業として、知覚した情報を連携して保持し、行動の判断材料として利用することだと御教授いただきました。

 

 

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